※なにか気になる点がありましたらコメント欄にご記入ください。また、工作や回路を製作する場合には、細かい作業などに対して、細心の注意を払われるようお願いいたします。
【目次】
1.はじめに
CQ出版社刊「定本 トランジスタ回路の設計」(鈴木雅臣著)という本を今年に入って読み始め、10月末に読み終えました(以下「出典」と表記します)。
トランジスタの基礎となる部分を学習できてよかったのですが、中に出てくる回路も作りたくなり、手始めに第10章の直流安定化電源から作ることにしました。
第1章から作るのが筋かと思いますが(実際は2章)、回路の電源として+15Vが必要なようで、電源を持っていなかったこともあり、安定化電源から作ることにしました。
この本が出版されて30年も経っており、中の回路も一般的なものなので、回路図や部品の品番などはそのままここに載せようと思います。
ただし、既に出回らなくなってしまった部品などもあるので、そうした場合は代替品を使用することにします。
とにかく、実際作ってみたものの出来具合を、ここにとどめておこうと思います。
※今回の回路などの権利はCQ出版社および、出典の著者の方に由来すると思います。
万一の事態については、筆者は責任を負いかねます。
(筆者独自のアイディアに由来する面に関しても、責任を負いかねます。ご了承ください)
2.回路など
動作原理などは詳しくはここでは載せないでおきます。(うまく説明できないので)
※製作した回路図など、資料の一部をGithubに公開しました。付録Aをご参照ください。
はじめに完成した安定化電源の外観を示します。
回路図を図1に示します。(青い枠線の中が出典に載っていた回路図です)
今回の設計ではYouTubeなどで活躍されているイチケンさんの動画を参考にしました。
今回の作品はスイッチング方式ではないですが、以下の点に関して機能を取り入れました。
- 主電源のスイッチを前面に持ってきた
- 出力スイッチを設けた(前面に取り付けた)
- 微調整用のVR2を追加した
- コンデンサの放電用の抵抗を設けた
※放電のための特別な回路は入っていません。
また放電用抵抗R2、R5に関しては付録Bにて、値の計算など詳しく書きました。
また、部品表をリスト1に示します。
リスト1 部品表(単価、金額は参考価格、取扱店に関しては筆者が利用したものを示しています)
上のリストのうち、No.9までが出典の回路で使用している部品です。(No.3とNo.4は代替品です)
1台分の部品代の合計を計算してみたところ、約7,200円でした。(話題のアリエクの電源と同じくらいですね)
また、今回自分で設計したプリント基板も載せておきます。
(GNDのベタパターンは削除してあります)
※AC24V用と出力用の各接続箇所は穴径が小さいです。(設計ミスです)
プリント基板は安く上げようと別の基板を一緒に合わせたものを発注しました。
運よく1枚の基板の料金で作ってもらえました。運送会社も格安のものを選んだら、基板1枚当たり約100円ぐらいになるかと思います。
(筆者はさらにクーポンを利用したためさらに安い値段で済みました)
※ちなみに基板を2枚に切断するのにCNCルーターを用いました。約2年前に書いておいた自分の記事が役に立ちました。
参考までにリンク先をはっておきます。
tanuki-bayashin.hatenablog.com
tanuki-bayashin.hatenablog.com
基板を1枚に分離し、部品を実装しました。
その後、トランスや基板が入るようにケース内のレイアウトを考えました。
(これによりケースの大きさを決めました)
ゴム足をケースの裏に貼り付けました。1枚で3mmと足りず、2枚張り合わせました。
また18[W]の負荷が必要になったので、手元にあったニクロム線を使い、自作しました。(付録C参照)
3.設計に関して
出典に書かれていなかったことに関して、自分で考え設計値を求めました。
(a)ヒートシンク
ヒートシンクはQ3に対して必要です。トランジスタが壊れないヒートシンクの仕様を計算して求めました。
計算では、まずコレクタ側の電圧ですが、トランスの2次側はAC24Vで全波整流した場合、C1の両端の電圧は約20.4[V]となります。(付録B(a)参照)
よってQ3でのワット数は、出力電圧が最低になるとき(3.8[V] 実測値)が最も大きくなるので、
となります。
出典の第5章(p.119)にヒートシンクの熱抵抗の求め方が出ているので、それを参考にすると、
ただし、
より、
と求まります。
そこで秋月電子のHPを見ると、リスト1のNo.14のヒートシンクが候補に挙がりました。
熱抵抗は上の値より大きいですが、参考資料を見ると発熱が17[W]のときでも、上昇温度は90℃ほどなので、これを使うことにしました。
(b)トランス
トランスは付録B(a)の中の計算を逆に行ってAC24Vのものに決めました。出力アンペアが1[A]のものを選びました。
(c)ヒューズ
全体の回路の保護用にとヒューズを挿入することを考えました。
初めはトランスの2次側が24V1A(定格)であったので、入力側は0.25Aのヒューズを付けていました。
しかし実際に電源を入れると、簡単にヒューズが切れてしまいました。
筆者が利用しているX(旧Twitter)のTLにて
「無負荷変圧器励磁突入電流」といい、定格電流の数倍から数十倍になる
との指摘を受けました。(ありがとうございました)
調べてみたところ、磁気飽和が起きているほど起こりやすいとのことでした。
ヒューズを1Aのものに変えたところ、スイッチをON/OFFしてもヒューズが飛ばなくなったので、ヒューズは1Aのものを使用することにしました。
(d)デジタル電圧計電流計
以下のものを使用しています。
電圧と電流を表示させるのに適したものをとAmazonにて見つけました。
また上の計器用の電源として以下のモジュールを使用しました。
(上の計器にてDC0Vから表示させるには別電源が必要なため、このモジュールを使用します)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B083TZCYZ8/ref=ppx_od_dt_b_asin_title_s00?ie=UTF8&psc=1
配線方法はAmazonの商品のページを参考にしました。(図1 回路図参照)
ただし、筆者の持っているデジタルマルチメーターで計測しながら、上の表示装置でも計測してみると、DMMではそれほど値は変動していなくても、この表示装置ではわりと値が変動することがあるようです。
(e)接地線
安全のため、接地用のコードをケースに取り付けました。
4.性能評価
それでは製作した安定化電源の性能を評価したいと思います。
4-1 一定時間の間の電圧の変動率
電源を入れ5分間放置し1分ごとに電圧値を測定しました。そして、そのときの電圧の変動率[%]を計算して求めました。
表1を見ると、おおよそ1[%] 程度であることが分かります。また電流値が大きくなる程、変動率が大きくなることが見てとれます。
4-2 電圧のAC成分
同時に電圧のAC成分も測定していました。(1分おきにです)
電流値ごとに平均を求め、集計したのがが表2です。これによりリプルのおおよその度合いが図れると思い、計測しました。
AC成分の各電圧値に対する比率を見てみると、電流値が大きくなるほど大きいことが分かります。
また、電圧値ごとに見てみると、電圧値が大きくなるとAC成分の比率が小さくなっています。
4-3 内部抵抗
今度は出力電圧ごとに電流の値を変えながら、内部抵抗の値を測定しました。
(電圧値と電流値の変化の具合から最小二乗法を用いて求めました)
結果を表3に示します。
出力電圧が上がるごとに内部抵抗の値は大きくなっています。
しかし1[A] 流れたときの電圧変動率を見ると、おおよそ10[%] 程度であることが分かります。
4-4 考察
4-1を見ると、電圧の変動はおおよそ1%ほどなのでそれほど大きい値ではないと思います。
4-2を見ても、AC成分の比率は低いと見ていいと思います。(基準は筆者の感覚です)
4-3を見たとき、電流の変化が定格いっぱいのとき、電圧の変動は電流値の値により10%ほどです。使用状況にもよるのでしょうが、電流の変化が大きい状況では電圧の変動幅は大きいと思います。
電流の変化があまり大きくない場合に、使用は限定されるかもしれないです。(筆者の電源に関する知識は乏しいので、普段の工作を通しての感想です)
ただ一つ言えることは、これらの結果から、他の電源と比較することができるようになりました。
この電源を使用してみて、実際どのような使い勝手かを実感してみたいと思います。
付録A 製作した回路図について
製作した回路図と部品表のPDFファイルを以下のリンク先に載せておきます。欲しいという方は、Gitにてクローンするか、zipファイルを解凍するなどして下さい。
付録B R2 と R5の求め方(コンデンサの放電用)
本文中で省略した と の求め方について触れておきます。
(a)R2 を求める
スイッチを切った時にコンデンサの電圧が素早く低下するようにとR2とR5を挿入しました。
まずC1の両端の電圧を求めます。
トランスの出力はAC24Vなので、 の両端の電圧はリプルがないと考えた場合、全波整流したものの平均値と見ることができます。
このとき平均値を とすると、
このことに関しては下のリンク先を見てください。
(AC100Vのとき平均値は約90Vとなります)
交流信号の実効値、平均値を求めてみた - Tanuki_Bayashin’s diary
さらにダイオードブリッジによる電圧降下を考えると、
と求まります。
※実際には全波整流したときにすでに1.2V分の電圧(直流)が引かれており、上の計算とは違った値となります。(計算の順序が逆)
ここでは近似計算としてみてください。
次に抵抗 の値を見ていきますが、その前に電力上の条件を見ていきます。
0.25Wの抵抗を使用したので、
すると、
となります。
ここで に対する設計指標は、
「10秒で電圧を10分の1にする」
と決定しました。(なんとなくですが‥)
コンデンサと抵抗を並列に接続したものは、1次遅れ回路として動作します。
したがって、コンデンサの電圧をVcとすると、
となります。(時間の経過とともに指数関数的に減少します)
但し、 は上で求めた動作時のコンデンサの電圧であり(20.4V)、t は時間です。
すると、
のとき なので
自然対数を取り計算を進めると、
このとき、 を代入すると、
となります。
この値は電力の条件を満たしています。
(b)R5を求める
同様にしてR4を求めます。
電力の条件を求めていきます。こちらも0.25Wの抵抗を使ったことから、最大の出力電圧は18[V]であるので、
となります。
実際には少し余裕も持たせて、とします。
今回はこの値をそのまま用いることにしました。
参考までに、放電にかかる時間は、先ほどの式をそのまま用いると、
となります。
付録C 自作の負荷について
今回の電源では最大18[V]1[A]出力することを目標としたので、動作確認をするのに18[W]の負荷が必要になりました。
そこで本文写真9に示すような負荷を製作しました。
ここではその製作過程を簡単に紹介します。
1年ほど前に発熱する回路を作りたくてニクロム線を使用しました。(未完成でした)
そのときのニクロム線を用いて負荷を作れないかと調べてみました。
ニクロム線の導電率はだということで、筆者が持っていたニクロム線はのものでした。断面積を求めると、
抵抗を求める式は
で表せます。ただし、
となります。
最大で90[Ω]くらいになればいいと思ったので、
となり、4.3[m]あればいいことが分かりました。
運よくスチールの板があったのでそれを流用しました。
表面の塗料が少し剥げていたので、カプトンテープをまいて絶縁し、その上からニクロム線をまいていきました。
全体の1/5ごとに端子を設けておきました。
(ニクロム線はむき出しなので、自由な位置で接続できますが‥)
※感電、火傷等にお気を付けください。
ニクロム線の融点は約1400度とのことで、線径が のときはくらいまでは流して大丈夫のようです。
(以下のリンク参照)
※またニクロム線の温度による抵抗値の変動は100度につき1%程度のようです。(あまり変化しない)
以上です。
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。